成熟社会の経営について―南方司
※inflorescencia=inf. 南方司氏=南方 八田真行氏=mhatta 中川譲氏=未識
成果主義導入の根っこにあるもの
mhatta 南方さん、成果主義ってどう思いますか?
南方 それは、はっきりしているのは、なぜ成果主義という話が出てきたかというと、従来の賃金カーブを維持できなくなったから、メリハリをつけなきゃいけなくなったっていう。いまアンチ成果主義みたいな議論になっているけれども、成果主義を実際に進めてみるといろいろと問題が出てきたということであって、成果主義に梶を切らざるを得なくなった前提の方は変わってない訳ですね。
inf. うーん。
南方 何かって言うと、そのー。要は問題の根底にあるものは、右肩上がりの成長はなくなりましたっていうのであって。で、その環境の中で二種類の人がいるわけですよ。もうその会社と心中するしかない人と、比較的まだ他に転職できる人と。
mhatta なるほど。
南方 転職のできる人をある程度引き止めていくために、市場価格を維持しなくてはいけないんだけど。給与原資自体はそんなに増えてない。むしろグローバル化によって競争圧力は高まっている訳です。
inf. うん。
南方 あるいは、賃金以外のかたちでモチベートするために、コストをかけるというのが難しくなっているというなかにおいて、彼らは別に……良かれと思ってやったことになってるけれども、ファンダメンタルとかそういうところにある以上、成果主義を返上するためには、昔と同じように毎年5%とか10%ずつ売り上げを伸ばしていかないといけない。実現できる会社は、まあ、1割とか2割くらい市場のなかにあるかもしれないけれども、じゃあ残る会社は2つしかなくって、こう・・・皆の給料を押し留めて優秀な人から順番に乗っけていくか、いらない人をほんとに・・・リストラしちゃうかっていう話じゃないですか。
inf. はい。
南方 だから成果主義の見直しを議論するのであれば、解雇規制とかも手をつけない限りは……
mhatta でも成果主義の場合でも、多くの議論というのは、なんていうの、賃金格差は明らかに40代くらいでかなりつくわけじゃないですか。かつ、与えられた仕事っていうのが……優秀な人とダメな人では、明らかに差がつく。優秀な人には楽しい仕事が降ってくる。そうでない人には社史編纂とか降ってくるとかいう区別があって。しかもそれによって賃金が40代くらいで下がってくるというような……。
南方 はい。
mhatta どうしてこんなことを聞くかって言うと、南方さんは2つの企業を体験されてるかなと思って。
南方 ああー。うーん、なんだろう……。僕の経験上、搾取されてる人もあんまり辞めないよ、会社って思ったの。だから結構学者が煽ってるところもあって。そのー。こういう話をすれば良いのかな……。
mhatta いやー。別に良いんですけど……。
南方 ひとつの問題は何かというと、昔は安定的に、えーと、ポジションが増えていったのだけど、長く働いていて良いパフォーマンスをあげた人に対して、ポジションを用意ができたんですよ。で、それができなくなった。それで何が起こるかっていうと・・・。例えば20代とかでね、何年間かすっごい良い成績を出したら、例えばマネージャーとかにしようとするわけじゃないですか、というかしなきゃいけないじゃないですか。
inf. ええ。
南方 でも、マネージャー・ポストは既にうまっている。そうすると、人間ってやっぱ仕事をしていくなかで覚えて、経験していくわけじゃないですか。で、上が詰まってしまうと、いくら仕事で評価されたところで、次のステップのことを経験を通じて学ぶことができなくなっちゃうんですよ。
それはアメリカの70年代後半から起こったってことはまさにそれで。なぜキャリアアップのためにジョブホッピングが起こるかっていうと、まあこれは自分が前の会社から転職した時もそうだったけれども、要はそこにいて努力が評価されても、なんかそこから先に行くための機会を提供してもらえないっていうことの方が、賃金そのものよりも重要な問題なんですよね。つまり目先の待遇よりも、先行きの方がずっと重要ということです。
その会社の個別の中で見ると、自分が次に学ぶことのできるポジションが空いてないけれども、業界の中のどこかで見れば空いてるかもしれないわけじゃないですか。そうすれば、トラックレコードを持っていれば、あるいはスキルを持っていれば、ステップアップするチャンスはある訳です。
だから別に彼らは転職したいわけじゃなくて、多くの場合、人生のフェイズ、フェイズに合わせた仕事をしたいときに、それをオファーできる会社が足元にないかもしれない。良かれ悪しかれ必然的に、そういうケースって増えてくるんじゃないでしょうかね、経済が成熟してくると。