成熟社会の経営について―南方司
※inflorescencia=inf. 南方司氏=南方 八田真行氏=mhatta 中川譲氏=未識
OJTは死んだ
南方 で、アメリカはそうやって製造業が行き詰って、ふんづまっていった時代と、何が時を同じくしているかって言うと、MBAみたいなのがちやほやされはじめたのが、結構時期が近くて。
inf. ほー。
南方 で、僕はそのー。学校で教えているマネージメント理論とかって実はそんなに仕事に役立つとは、思わないんだけれども。
未識 うん。
南方 結局のところ、OJTでマネジメントを育てることが難しくなった、つまり上が詰まっているので仕事で評価されても部下をつけるのが難しいっていうのが、成熟社会の最も大きな問題で。そうすると何が起こるかって言うと、階層化が起こるんですよ。つまり特定の人々を最初から選別して、マネージメントを知ってるかのように扱う。MBAなりを取ったら。で、マネージャーをやれば何年かで財務だって管理だって経験は積める。
inf. はい。
南方 だから、それで何が起こるかというと、マネジメントとしての彼らを、一生……現場対応の人が超えることができなくなってしまう。そうするとマネジメントとしての経験を作ったり、あるいはマネジメントとしてのトラックレコードを残す機会を与えられない。
inf. うーん。
南方 で、昔は結局、こう……段々ずっとやって、ステップを上がっていくっていうかたちで優秀な人を引っ張り上げていったのが、今はその……なんていうのエキスパートたち、つまり専門職とマネージャー職っていうのを分けて、専門職でも例えば、常務取締役なり専務取締役なり行けるようにしましょうっていうのが、人事のなかでもそれなりにできてる背景は何かって言うと……。そういうなんか、昔であれば現場で優秀な人に対してマネージメントの勉強をさせるっていうような人事のあたりができたんだけど。
未識 うん。
南方 それが難しくなった、と。難しくなったからといって、やっぱり現場の人は一生給料上がんないよっていうのはありえないじゃないですか。そうすると、部下はつかなくても、エキスパートとしてトラックレコードを残した人に対してはちゃんと、その、給料は上がっていく仕組みというのを作っていきましょうという。キャリアパスを用意しないことには……士気を維持できなくなっちゃう。
inf. はい。
南方 いやー。あんまりこのへんは……。
未識 いや、今のMBAの描き方とかは、とても分かりやすい……。
inf. あはは!
未識 というか、すっきりした感じが、私の中ではありました。
mhatta 私はたぶん立場上、将来……MBAを育てる立場に立たなきゃいけないので……。
一同 ははは!
mhatta 参ってるんです。
南方 で、MBA取っても行き先がなくてふんづまってる感があるけれども、でもこれもすごいシンプルな話で。あの、叩き上げは叩き上げを評価し、MBAはMBAを評価するというね。いまは叩き上げで上がってきた企業が多いから「MBAなんて生意気なだけで使えるか」って話になっているけど、MBA出身の経営者なりマネージャが増えてくれば、似たようなタイプのひとを重用するようになってくるでしょうね。
inf. はは!なるほど。
南方 そうすると……人口工学的にどう推移していくか、わかっちゃうわけですよ。そのときのトレンドが見えやすい。んで、結局マネージャー引き抜けると思った人をOJTで育てられなかった会社は、外部労働市場からそれを引っ張ってくるしかないわけだから。そういうことは日本のあちこちの会社で、これから起こるんじゃないかと思いますよ。