共有地としての言葉―仲俣暁生



※inflorescencia=inf.  仲俣暁生氏=仲俣 ced氏に関しては雑記帳をご覧ください。



アマゾンに編集者が就職する未来は来るか?

仲俣 本は、ひとつひとつを取り出すとロングテールな存在だけど、全体としてみたら。やっぱり巨大メディアなんです。でも多品種少量生産的な商品だから、全国一律にばら撒いて代金回収するなんていうのは、経済効率には良いわけがなくて。

inf. なるほど。

仲俣 ケーブルテレビのコンテンツを手で運んでいるようなものですからね(笑)。えっちらほっちら物を運んで、お金を受け取って、残った本は持って帰る。そういう出版システムは、遠からず変わっていくと思うけれど、それによってこれまで本が支えてきた人々の知的行動が大きく変わるかというと、そうとも思えない。日本人の知力が落ちているとは僕にはあまり思えなくて、むしろ、ふさわしい出口がなくて溜まってる感じがするんです。その噴出の仕方が、ある本がアマゾンで突然売れたり、ということになると面白い。そういう潜在的な声を吸収して、出版物として出していける編集者がいたら、それこそが現代の菊池寛なんだろうけど、そういう人はもしかしたら、いまは出版社じゃないところにいる可能性もありますね。

inf. うーん。皆知的好奇心は持ってるけど、でも選ぶのは面倒だから誰かに選んでほしいんですよね、たぶん。それで、これだと言ってくれて自分が納得できるような人がいないから皆フランストレーションがたまる。全体を見渡している人が少ない。

仲俣 全体を見わたすことは、いまは誰にもできないですよ。

inf. 機能上の問題でできないからフランストレーションがたまっていって、たまに人の口の端にのぼっているような本というと、ネタにするために買うというところがありますね。

仲俣 検索という技術はすでにある。ただ、検索の問題は、最初から検索する対象のことがある程度――たとえば名前とかが――わかってる場合にしか機能しないことです。アマゾンのリコメンドにしても、アマゾンで本をいっぱい買っている人はリコメンド・エンジンもどんどん賢くなっていくけれど、アマゾンであんまり買わない人は、リコメンド・エンジンが全然賢くならない。そこの部分のリソースが少ない人にとっては、結局あまり機能しないんですね。
 逆にいやな言い方をすれば、自分の個人情報やプロファイルを完全に明け渡せば、21歳学生です、趣味はこうで、読書履歴はこれこれで……っていうのを打ち込んでいくと、リコメンド・エンジンが起動してくれて、「あなたのようなタイプにおすすめ本はこれ」っていうふうに正確に指し示すことは、きっともうできると思うんですよ。

inf. うーん。

仲俣 つまり、本を探したり読んだりすることが、限りなく「人生相談」みたいなものに近づいていくわけです。その一方で、AmazonとかGoogleみたいな本当のIT企業が、書物というメディアについて、本気で分析していく時代になってきた。これからは出版社よりもIT企業のほうから、書物についての新しいアイデアがどんどん出てくるでしょう。冗談ぬきで、出版社にいる編集者がこぞってAmazonやGoogleに転職しようとする時代がくるかもしれない。

inf. きっと「べストレビュアーがいるから要らない」とか言われそう(笑)

仲俣 そうならないためには、編集者はコンテンツだけじゃなく、アーキテクチャまで考えるようにしないといけないんだと思います。
 ずいぶん長い話になりましたが、このあたりで終わりにしましょうか。

inf. はい、どうもありがとうございました!



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