共有地としての言葉―仲俣暁生



※inflorescencia=inf.  仲俣暁生氏=仲俣 ced氏に関しては雑記帳をご覧ください。



ロングテールが出版に与える影響

inf. でも今、アマゾンは……アマゾンに書評を出すんじゃなくて自分のブログに出すって人が多くて。なんかこう移ってきているというという話があって。それは投稿規定とか字数規定とかもあるし……。まあ見てもらえることは見てもらえるし、影響力もたぶん大きいんだろうけど、自分のブログで書いた方がだらだら書けるし面白いっていうのがあって、だんだんアマゾンの(レビューの)質が下がってるというところを感じるんですが……。

仲俣 アマゾンのレビューって読まないから分からないけど、アマゾンも「村」の民度が下がってるのか。つまりそれは、もはや先鋭集団じゃなくて、かなり大衆化してきたってことですよね。

inf. で、一方でブログで話題になったりする、例えば今回の白田先生の書籍とか、なんか最初はそんなでもなかったけど、ブログでわーっと、有名ブロガーと呼ばれるアルファブロガーと呼ばれる人たちが取り上げてから結構……ネットで話題になってるとか言って。そんなに、一部の人しか話題にしてないはずなのに、何故か話題になってるということになっていて。

仲俣 それはなぜかっていうと、まずひとつは、普通の人が思うより、本の発行部数が少ないってことなんですよ。

inf. あー。

仲俣 新聞や雑誌といったマスメディアと違って、書籍の部数って、3000部とか5000部とか8000部とか、千部単位でしょ。はじめから1万部を超える本は、いまじゃむしろ特殊な本。まあ基本的に4桁の部数でしょう。それでまあ、ブログの世界で、ある程度人文的だったり文学も含めて興味を持ってる人の数っていうのは、まあ1000のオーダーか、もしかしたらもっと少ない、数百人かもしれない。だからそこは、もともとロングテールな「ムラ」対「ムラ」でマッチしていて、それが検索とかでジャストミートするから。

inf. なるほど。

仲俣 ようするに、グーグルみたいな検索技術のおかげで、昔だったら学校のクラスで誰も話があう相手がいなくて、学年でもひとりかふたりとしか心が通じ合わないような子が、ネットに出てくれば、話の合う相手が何十人かはいるっていう話ですよ。本と読者の出会いの場所としては、グーグルみたいなものがあって、ブログがあるっていうのは、ある意味幸福な場所だと思うし、僕自身も、すごく自分の本についてそう思いますけど。

inf. そうですね(笑)

仲俣 いや、ほんとにそう思いますよ。他人の本のことも、ブログなら心置きなく書けるので(笑)。

inf. ええ。

仲俣 だからネットが出版に与える影響っていうのは、えっーと、つまり書評や評判がウェブで広まることで、一種の同調圧力とか、あるいはある種の、なんて言うか……力学を起こして波及していくような……まあ、ようするに「祭」的になっていくようなことは、本の場合は、まだあんまり現実社会には返ってきてないんじゃないかと。

inf. んー。なるほど。要するに跳ね返ってきてはいないと?

仲俣 じゃないかと思うんですよ。





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