共有地としての言葉―仲俣暁生



※inflorescencia=inf.  仲俣暁生氏=仲俣 ced氏に関しては雑記帳をご覧ください。



応答のコスト

inf. ……それにmixiっていうのに代表されるような私的空間っていうのは、2番と関わるんですが、同調圧力っていうのがあって、なんかプラスの評価しか出来ない。批判をするとまずいっていうのがあって。でも書籍って批判を許容する空間……もちろんあの、ブログでもモヒカンと呼ばれる人たちは批判を肯定して「いや、何がいけないんだ」と開き直っているんですけど、それはどっちかっていうと少数派で、mixiみたいな馴れ合いでプラスプラスの評価で批判はしないみたいなところがあって。でもそういうのってあんまり健全じゃないような気がするんですよ。で、健全イコール公共じゃないっていうのかもしれませんが、複雑性を担保するという意味では、書籍の方がまだ……まだマシ(笑)

仲俣 それはそうだと思うよ。

inf. タコツボ化はしているけれど、わりと健全なタコツボであると。なぜかと言うと、それは一応タコツボにいる人以外も読むことを前提として書かれているから。それはまあ「言葉」の問題なんですけど。っていうのがあって。じゃあその……そこをもって書籍の良さをどう強調していくのかなとか、あとその、仮に私的空間が不健全だと思うなら、そういう私的空間はあっても良いけれど、じゃあ批判しても良いって空間をどう確保するのかっていうようなところを聞いてみたい。

仲俣 いまmixiの内部で何が起こってるのかは、ほとんどログインしてないんでわからないんですよね。mixiで何か書かれたときに、一応見られるようにと思ってID持ってるだけで(笑)。えーっと、mixiの友達みたいの、何て言ったっけ。

inf. マイミクですね。

仲俣 そうそう、マイミク(笑)。ブログを更新すると、マイミクの人の日記の更新のところにも出るから、mixiからはてなの方に来てくれる人もいると思うんで、その仕組みのためだけに使ってる。でもmixiのコミュニティでは、批判的な議論はしにくいんじゃないかな。メンバーがよっぽど人文系の人たちばっかりという場合は別ですけど。

inf. うんうん。

仲俣 同調圧力っていうのとはまたちょっと違うレベルで、それぞれの記号操作能力の違いっていうのがあるからね。必ずしもコミュニケーションのコストとベネフィットが割が合わないとなると、ここは馴れ合っておいた方が楽っていうことになって、そこから一線を超えてしまうとキレてしまったり、炎上したりするでしょ。

inf. そう。その両端しかないっていうのはすごく不健全だなーって思って。だってその間に、普通に理性的に話し合えば良いじゃんっていうところがあるのに、馴れ合うか炎上するかしかなくて。

仲俣 ただね、複雑な物事のときって、話し合いにはやっぱコストや手間がかかるから。

inf. そうなんですよねー。

仲俣 例えば、ぼくがなんで自分のブログのコメント欄閉じたかっていうと、理由はそこなんですよ。トラックバックはどんなのが来ても良いわけ。僕のブログの記述だって、練り上げた思考じゃなくてあくまでもいま考えようとしていることのメモだから、たくさん間違いもあるだろうし、それこそツッコミどころ満載なんですよ。でも、ブログのコメントっていうのはまさに、さっきも仰っていたみたいな、ある一部だけを取り上げての揚げ足取りが起きやすいし、しかもそれぞれが勝手な文脈で応答責任を求めてくるから、別にそれには応えなくて良いだろう、ってことです。

inf. はい。

仲俣 それよりは、30分とか1時間とかでザーッと書いた僕のブログの文章を誰かが読んで、ちょっと頭にきたり、ここは違うって思ったときに、その人がまた30分とか1時間かけて自分のブログで書いて、こちらにトラックバックしてくれる。それを僕は読まないかもしれないけど、僕のブログを見に来た人がトラックバック先も参照して、なんだかこっちの人が言ってることの方がまともじゃないか、って考えてくれることは良いことなわけ。それはどちらかと言うと、これまで本が果たしてきたのに近いアクションですよね。
 いちばん最初に話をした「ダイアログの方がデータ転送にエラーがあったときに、その都度、間違いを訂正できる」っていう話に戻るけど、でも複雑な思考に対していちいちそれをやるっていうのは、普通の人にはたぶん耐えられないことなんですよ。

inf. なるほどー。

仲俣 まあ、恋人同士とかだったら、「えッ!?、ちょっと今の言い方なに……」とかって、顔の表情とかも含めて、相手のひと言ひと言にパリティチェックを利かせられるだろうけど……

inf. あはは!

仲俣 そうやって、いちいちのフィードバックに対してコストをかけることによって、お互いの関係性の確認を得られるということがある。学者とかの世界も別の意味でそれに近いかもしれませんけど、普通の人はそんなことできないから。だから、そのことにはある種、しょうがない面がある。

inf. はい。





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