共有地としての言葉―仲俣暁生



※inflorescencia=inf.  仲俣暁生氏=仲俣 ced氏に関しては雑記帳をご覧ください。



「ソーシャルブックマーク」化する書物

inf. でも一方でyomoyomoさんのインタビューで印象的だったのは、こう、共時性の文脈を超えた文章を書きたいという欲求があると仰っていて。確かに毎日思っているけれどなかなか……。共時性のある、一週間くらいで消えていく話題を追っかけて行った方がブックマークも取りやすくページビューもすごく伸びると。逆に普遍的な話をしだすと、あまり見てくれない。確かに長い目で見るとたぶん見てくれるんですけど。反応は返ってこないということが感じられて。で、たぶん出版社の方も同じだと思うんですよ。

仲俣 うん、同じですよ。

inf. ですよね。

仲俣 出版社はとくにインターネットのなかの同調圧力は受けていないだろうけど、一般の世の中の同調圧力は感じている。それだから、やっぱり共時性の言葉にどんどん行っちゃっているわけ。それはネットがどうということとはあまり関係なしに、とにかく現代社会がそうなっているからだとしかいいようがない。
 しかも、本の場合はブログと違って、誰もツッコミ入れないわけですから。ブロゴスフィアの代わりに、出版界に「紙スフィア」みたいなのがあるとしても、そこでは書評誌とか出版ジャーナリズムがほとんど機能してないので、誰からもツッコミ入れられないまま、『国家の品格』があんなに売れちゃう。それに、ぼくは梅田望夫さんの『ウェブ進化論』を買った多くの人は、インターネットユーザーじゃないと思うんですよ。

inf. そうですねー。

仲俣 あれはネットで売れたっていうのとはちょっと違う理由じゃないかと思ってて。たぶん、あの「ロングテール理論」で安心した人がいるんですよ。もしかしたら『国家の品格』と同じ人たちが『ウェブ進化論』も読んでる可能性もある。あの部数は、きっと非インターネットユーザーが持ち上げたんじゃないかな。

inf. そういう意味で、公共性に資するという意味では、どうなのでしょうか?

仲俣 出版というメディアが?

inf. 今後こういう傾向……共時性にどんどんよっていくような傾向は?

仲俣 それはあると思いますよ。

inf. 公共性……例えば今回の『〈ことば〉の仕事』のなかでは、公共性についてかなり考察というか主題が、初期にはおかれていらっしゃいましたよね。そのへんについては?

仲俣 ようするに今言ったことって、新書の例をみればわかるように、商業出版、商業的な要請をともなう出版の世界の方が、インターネットよりももしかしたらアナーキーっていうか、ちょっとこう、ワケがわからない状況になっていて……。

inf. はい(笑)

仲俣 アナーキーというのは言いすぎですけど、ちょっとまあ、異常だと思うんですよ。本が全て共時的な関心だけでいいのなら、まさにソーシャルブックマークのように売れているわけでしょう? 『国家の品格』200万部、『バカの壁』400万部とかっていうのは、はてなブックマーク200、400っていうのと同じですよ。

inf. はは!

仲俣 要するに「ちょっと『国家の品格』買っとくか」って言って、ブックマークしてる感じで皆読んでいて。本の中身を吟味してるんじゃなくて、紙が共時性を確認するのツールになってるわけですよね。まさに非インターネットユーザにとっての、ソーシャルブックマーク機能を果たしているんだと思うんですよ。

ced そうすると、はてなブックマークでよくある傾向として、タイトルでつられるというのが……。

仲俣 最近の新書のタイトルって、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』とか、結構「釣り」っぽいのが多いじゃないですか。

inf. 釣りですね(笑)

仲俣 本という体裁を整えるには最低でも200枚くらいの原稿がいるので、それは何とか揃えるわけですけど。買ってる方はタイトルだけで、まさに釣られて買って「ブックマーク」してる。それがまたフィードバックを起こして、「こんなにブックマークついてるなら俺も」っていって読むという現象が起きているんじゃないか。たぶんいまの新書の読まれ方は、長文のブログのエントリーを読まないインターネットユーザーと同じ。たぶんすごく適当に読んでいる。

inf. そういう面ではほとんど同じなんですね。

仲俣 同じですよ。

inf. 層は……層というか、構成しているメンバーは違うのかもしれないけど、傾向はほんとに同じだと。

仲俣 はい。

inf. そうですかー。

仲俣 もうひとつ、最近の新書の多くは……今日の「ライアカ!」のテーマと関わるんだけど。

inf. はい。

仲俣 最近のベストセラーの本って、喋りをまとめたものがずいぶん多いんですよね。『国家の品格』はもともと講演でしょ。『バカの壁』は編集者が聞き書きで養老さんにインタビューしてるんですよ。

inf. へー。そうなんですか。

仲俣 だから新書のベストセラーの多くは、実は書き言葉じゃなくて、まあ喋り言葉であると。そういう傾向がひとつある。若い人が本を読まない、って大人はいうけど、大人が買っている本だって、「読んで」いるんじゃなくて、あれはカセットブックを聞いてるようなもんですよ。

inf. はい。

仲俣 批評の世界に小林秀雄賞っていうのがありますが、あれの受賞作のいくつかもそうですね。中沢新一『対称性人類学』は大学の講義だし、吉本隆明『夏目漱石を読む』も聞き書き。まあ、聞き書きというのは編集者やゴーストライターが本を作る伝統的な手法だから、これまでもずっとあったことで、ふつうの政治家や芸能人の本はぜんぶ聞き書きですからね。

inf. そうですね。

仲俣 いまはもう、学者とか批評の言葉でも聞き書きでOKっていうことになった。文学はちょっと脇に置くけど、批評もアカデミズムも、もう聞き書きでいい。その方が売れるし、読まれるという事態がある。語り言葉、喋り言葉をどんどん本に載せていかざるをえない状況がどうやら来ている。このふたつが出版界ではいま特徴的なことだと僕には思えるんですね。でも、それでほんとに良いのって話もあるわけで。……きっとこのあたりが、今日聞きたいことかな、と思って話してるんですが。

inf. はい。





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